今回は、みんなを幸せな気持ちにさせた、認知症の女性についてのお話をします。このブログ記事を読んだ後には、認知症に関わる職員や、ご家族の考え方が少し変わるかも知れません。
今日の認知症
超高齢社会となり、最近は認知症について知識がある方が、増えて来ました。
以前は、痴呆症とかボケ老人とか、なんか高齢者の人権問題に引っかかりそうな言葉で呼ばれていましたが、今では、中学生、あるいは小学生も認知症の事を知っているのに、大変驚いたことがあります。
また発症や進行によって、治療法や薬ががあり、高い治療効果も期待できます。発症前の予防方法もたくさんあります。
認知症の学習は、また今度に置いといて、今回は、私が体験した認知症の女性の話(レアなケース)を是非したかったので、先にこの記事を書く事にしました。
施設に入所して来た認知症の女性
私がその女性と初めて対面したのは、まだ女性が病院に入院している時でした。ちょうど女性は病院入院中でリハビリを受けている最中で、知らない私が、息子さんと来たのに驚いて、たいそうご立腹されていました。
私が、介護施設の責任者である事を話すと、息子さんに向かって「なんでリハビリの時間に連れてくるのか!そんな大事な方だったらもっと早い時間に連れて来てくれたらいいのに!」と怒鳴られましたので、「いえ私が遅く来たので申し訳ありませんでした。」と謝りました。
実は、女性は、少し認知症が出てきてたため、足を滑らせ、大腿骨の骨折をしてしまったが、今は回復期にあるので、退院後の施設を探していたのです。果たして施設で生活できるのか?わからないので、
ちょうどその時間なら、リハビリが始まる時間で、どれだけ歩けるかを私にみてもらいたくて、息子さんが、わざわざ、その時間に設定したのです。
私が平謝りに謝ると、いいのよ、あなたは悪く無いんだから。と言っていただいたのを強く覚えています。
息子さんも、親思いのすごくいい方で、一流会社の顧問をされている方でした。みた感じ賢明で優しい方でしたが、お母さんには、頭が上がらない。といった様子でした。
施設に入所してからも、息子さんは、週に一度は、必ず面会に来られていました。まだ新型コロナウイルスが流行る前の話です。そんな息子さんがくるとその女性は大変嬉しそうにお話をしていました。
息子さんの病気
そんな息子さんが、しばらく面会にばったり来なくなりました。女性は、「最近息子が来ないわね。何してるのかしら?」と言っていましたら、ふと息子さんが現れました。そして私たちに、「実は脳に腫瘍ができて、手術をするんです。検査のためしばらく入院していたんです。母に話すと心配するので内緒にして欲しい。」と言われました。
女性は、そんな事も知らずに、「なにしていたの?」などといつもの調子で息子さんに怒っていました。
息子さんの復活
それから数ヶ月後、手術が成功した!と、息子さんがやって来ました。女性はだんだん認知症が進んできておりましたが、また息子さんが帰って来たので、たいそう喜んでいました。
しかし悪夢はその数ヶ月後にやって来ました。息子さんのお嫁さんが来られて、実は主人また入院しないといけないんです。脳腫瘍が他のところにもあり今度は会えなくなるかも知れない。お母さんにお別れを言いに連れてきます。お母さんが、悪くならないか心配です。と言われました。
翌日、頭に包帯を巻いた息子さんが、奥さんの運転でお母さんに会いに来ました。きっと、辛いことを言われたんだろうと職員みんなで心配していたところ、どうやら、女性は息子が来たことすらも忘れている様子でした。
そうです。認知症が進行して、あまり事を理解出来てなかったのです。その時、息子さんは、「なんとか話が出来てよかったです。入院してきます。」と苦笑いしていたのを覚えています。
息子さんの死
数日後、息子さんは帰らぬ人となりました。奥様が、せめてお葬式にはお母さんに出席していただきたい。と葬儀に出席する為、外出許可を取りに施設にいらっしゃいました。
私は、あんなに大好きだった息子さんの葬儀に出席すると、動揺して悪いことが起こるのではないかと心配しました。しかし、女性は奥様が持ってきた喪服に着替え「行ってきま〜す。」と笑顔で出かけて行きました。
帰ってこられて、疲れたでしょ?と尋ねると。「まあ〜ね〜。」とあまり事を理解してない様子でした。
ほっとした介護職員
次の日の昼ごはんは、女性の大好きな月に一度のバイキング料理でした。女性は、何もなかったように、いつも通りおかわりを何度もしていました。介護職員もいつもなら、もうたくさん食べたから控えて下さい。と言うところを、気を使ってどうぞ。どうぞ。とあげていました。心配ないようで介護職員も安心していました。
奥様の気持ち
後日奥様が、挨拶に来られました。主人はいつも「お母さんがいるから、先には死ねない。」と言っていました。でも、お母さんは、認知症が進んでいたせいかあまり理解できてなくてよかったです。主人も幸せだったと思います。これからもよろしくお願いします。と話されました。
人の人生にはいろんなケースがある
よく認知症になると悩みや痛みが無くなるから、認知症は神様が与えた病気。などと言います。子供が親より先に亡くなる可能性はとても低いかも知れません。
認知症は、接し方、治療、生活。本当に難しい疾患であることは間違い無いですが、今回のケースでは息子さんもきっと空の上から、お母さんの生きる頑張りを応援している事だと思います。お母さん想いのいい息子さんだったので。



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